和紀さんとの出会いは、
当時としては珍しかった男性美容師のサロンで、である。
手鏡でヘアースタイルをチェックする和紀さんに、
自分自身に厳しさを課すプロ意識をみた。
あれから20年、それは今も変らない。
自分に厳しい人は他人にも厳しさを要求するものだが、
和紀さんはとても親切、そしてやさしい。
和紀さんは他人に苦労を見せない苦労人、と私は見る。
藤本統紀子.........
シャンソンは、『人生を歌う』ものだと云われます。
出会いや別れが『3分間のドラマ』として美しく語られ、
痛みさえもが甘美な思い出となります。
現実の人生では、揺るぐ筈のない世界がそこ此処で崩れ去り、
人はあまりの辛さにうちひしがれます。
変わらぬ愛は歌の中だけの存在で、
人の生きざまや時には真理さえも、
変わらずにはいられないのだと思い知るのです。
16年前、『歌う』ことに恋したシャンソン歌手は、
その思いのすべてを、初アルバムに託しました。
それから幾星霜がありまして、
まるで歌のように、時は流れ人は行き過ぎても、
変わらず『歌う』ことが私の『人生』となりました。
新アルバムでは、
ファーストアルバムで取り上げた何曲かを、あえてもう一度歌っています。
『人生を歌う』という言葉の意味を、歳月の重さを、
じっくりと耳を傾けて味わっていただければ幸いです。
仲井和紀........
シャンソン歌手仲井和紀とのはじめて出会いは、
当時駆け出しの生意気なジャズシンガーだった私が、
友人の出演するジョイントコンサートに出かけた時に遡ります。
初めて聴いた若い彼の、まっすぐに向かってくる熱い歌。
そのパフォーマンスには、若さにありがちな熱いだけの独りよがりではなく、
未完成ながらも、プロとして観客を感動させたいという
ショーマンシップが息づいていて、印象的でした。
その日楽屋を訪ねて以来、25年が経とうとしています。
兵庫県出身の仲井和紀は大阪音楽大学音楽学部声楽科を卒業後、
在学中から心惹かれていたシャンソンを歌う道を選びました。
アイドル歌手ではない男性シンガーの常としてのイバラの道を歩きつつ、
現在までに、関西を中心に毎年コンサートやディナーショーを開催し、
シャンソン教室を主宰し、『シャルル・アズナヴールを歌う』という
アルバムをリリースしています。
音楽に対する視野は広く柔軟で、ジャズのライブハウスに出演して
サッチモを真似てみせる洒落っけの持ち主でもあります。
そしてその姿勢は、始めての出会いの日から、よきライバルとして
青臭い議論を戦わせた日々を経た今も、少しも変わる事がありません。
世界中がせわしなく、慌ただしく、分秒刻みで動いている今日、
音楽の分野でもリズム重視のデジタルサウンドが主流となって久しいのですが、
アルバム“KAZUKI”制作においては、その潮流にあえて背を向けて、
リズムを刻まない生(なま)な音にこだわってみました。
仲井和紀に饒舌な音創りは似合いません。
彼にとって自然な空間さえあれば、思いが溢れて行間は充たされるでしょう。
(仲井さん、あなたはさらりと、『僕の歌を歌っただけ』というでしょうね)
音数少なく、声高に張り上げず、やさしく語りかけ包んで癒してくれる
音創りをと云う私の注文に、すばらしいアレンジで答えて下さった音楽監督
編曲の鈴木和郎さん、アルバムタイトルと仲井和紀のイメージのスケッチを
プレゼントしてくださったコシノヒロコさん、御協力いただいたたくさんの方々のおかげで、
胸をはって誇れるアルバムが完成いたしました。
お聴きくださる皆様の忙しい日々の癒しになれば、と願っております。
Producer 谷 けい子........
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